離婚の年金分割とは?年金分割しないとどうなるのか
離婚する際に「年金分割」ができるという話を聞いたことがある人は少なくないと思います。
しかし、年金分割とはどのような制度なのか、年金分割をしないとどうなるのか、具体的なことがわからないという人もまた少なくないでしょう。
今回は、離婚の際に行われる年金分割について解説します。
目次
年金分割とは?
年金分割とはどのような制度?
年金分割とは、離婚した際に、元夫婦の婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれを自分の年金とすることができる制度です。
具体的には、離婚時に年金分割が行われると、婚姻期間中について、厚生年金の支給額の計算のもととなる報酬額(標準報酬)の記録が分割されることとなり、年金額を二人で分割することができます。
※上記の図は、妻が途中で専業主婦になり、厚生年金に加入していないケースです。
分割された年金は、厚生年金が少ない方が受給する年金に上乗せされることとなります。
年金分割をしないとどうなる?
年金分割をしないと、婚姻期間中の厚生年金の分割金(上乗せ分)をもらえなくなります。
したがって、専業主婦やパートしかしていないなど、元々もらえる年金額が少ない配偶者は、離婚後高齢になってからの生活費に窮するリスクがあります。
分割できる年金の範囲・割合は?
分割される年金は限られていて、厚生年金の報酬比例部分のみとなります。国民年金(基礎年金)部分は対象となりません。
また、分割できる割合は、後述する合意分割の場合が上限2分の1まで、3号分割の場合が当然に2分の1とされています。
年金分割のやり方(一人でできるのか)
年金分割の方法には、合意分割制度と3号分割制度があります。それぞれの方法について、以下で解説します。
合意分割制度
合意分割制度は、離婚または事実婚関係を解消し、
①二人の間の合意や裁判手続により年金分割の割合を定めている
②請求期限(離婚した翌日から2年)を経過していない
という条件を満たした場合に、元夫婦の双方または一方からの請求により、厚生年金(共済組合の組合員の期間を含む)の保険料納付記録(標準報酬)を分割できる制度です。
この制度により分割される記録は、婚姻期間中の元夫婦双方の保険料納付記録に限られます。
なお、事実婚関係のケースでの合意分割は、一方が国民年金の第3号被保険者の場合に限られます。
国民年金の第3号被保険者とは、厚生年金保険の被保険者、共済組合の組合員の被扶養配偶者で、20歳以上60歳未満の人を指します。
【第3号被保険者】
国民年金の加入者のうち、厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満であり、かつ配偶者の年収の2分の1未満の方)を第3号被保険者といいます。
保険料は、第2号被保険者全体で負担しますので、個別に納める必要はありません。(引用:国民年金機構)
3号分割制度
3号分割制度は、離婚または事実婚関係を解消し、
①平成20年4月1日以後に一方に国民年金の3号被保険者期間がある
②請求期限(離婚した翌日から2年)を経過していない
という条件をいずれも満たした場合に、国民年金第3号被保険者であった方からの請求により、相手方の保険料納付記録を2分の1ずつ分割できる制度です。
この制度による分割される記録は、平成20年(2008年)4月1日以後の国民年金第3号被保険者期間中の記録に限られます。
3号分割制度を利用する場合には、国民年金第3号被保険者であった方がひとりで手続を行うことができます(両者の合意は不要)。
年金分割の流れ
以下では、多く利用されている合意分割の手続の流れを解説します。
年金分割のための情報通知書の請求手続
まず、年金事務所または各共済窓口に、年金分割のための情報通知書を請求します。
請求に当たっては、以下の書類が必要です。また、請求は夫婦の一方だけでも双方の連名でもできます。
- 年金分割のための情報提供請求書
書式は、日本年金機構のホームページからダウンロードすることにより、または年金事務所や共済窓口で交付してもらうことにより取得できます。 - 年金手帳等
基礎年金番号を確認するために、年金手帳または基礎年金番号通知書が必要です。 - 戸籍謄本
相手方との身分関係や婚姻期間を明らかにするために必要です。
なお、事実婚関係にあった期間について情報の提供を受けようとする場合(事実婚の場合)には、事実婚関係を明らかにする資料が必要となります。
請求した年金分割のための情報通知書は、日本年金機構から送付されます。夫婦又は元夫婦が一緒に請求した場合には、双方に交付されます。
一方のみが請求した場合、既に離婚しているのであれば双方に交付され、離婚していない場合には請求した人に対してだけ交付します。
話し合いによる合意ができたとき
合意分割の場合には、原則的に話し合いで、年金分割を請求すること及び按分割合(あんぶんわりあい)を合意する必要があります。
按分割合とは、年金の分割を受けることによって増額される側の分割後の持ち分の割合のことを言います。
話し合いの結果合意ができた場合には、その内容を明らかにできる書類を添付して年金分割の請求手続を行うこととなります。
話し合いによる合意ができないとき
話し合いで合意できなかったときには、一方が裁判所に、調停・審判における附帯処分の手続を申立てることにより、按分割合を定めることができます。
年金分割の請求手続
話し合いにより合意できた場合も、裁判所の手続により按分割合が定められた場合も、年金分割の請求は「標準報酬改定請求書」に按分割合を明らかにすることができる書類を添付して行います。
標準報酬改定請求書も、日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
情報通知書の請求のみでは分割ができず、必ず年金事務所に年金分割の請求手続きをする必要があるので、注意が必要です。
また、離婚した日の翌日から2年を過ぎると年金分割の請求ができなくなるので注意が必要です。
標準報酬改定書の受け取り
按分割合に基づき、厚生年金の標準報酬を改訂し、改定後の標準報酬を日本年金機構からそれぞれ通知します。
年金分割の金額はいくらになる?
最後に、以下の事例に基づき、年金分割の金額の計算方法を解説します。
<事例>
夫:婚姻期間の標準報酬総額=4,000万円
妻:婚姻期間の標準報酬総額=2,000万円
①夫と妻の標準報酬総額の合計額を計算する。
4,000万円+2,000万円=6,000万円
②按分割合を50%として二人の分割後の標準報酬総額を出す。
分割後の夫の標準報酬総額:6,000万円×(1‐0.5)=3,000万円
分割後の妻の標準報酬総額:6,000万円×0.5=3,000万円
③分割後の二人の老齢厚生年金額を出す。
②で算出した金額に給付乗率をかけます。
ここでは、昭和21年4月2日以降生まれで、かつ婚姻期間が平成15年4月以降のケースとし、給付乗率として5.481/1000を採用します。
夫:3000万円×5.481/1000=16万4,430円
妻:3000万円×5.481/1000=16万4,430円
以上より、年金分割後の老齢厚生年金の額は、夫も妻も年額16万4,430円となります。
離婚の際の年金分割は弁護士へ相談を
以上をお読みいただければわかるとおり、年金分割をすれば、厚生年金が自身の収入に相当する分以上に上乗せをすることが可能です。
離婚の際、相手方配偶者が厚生年金や共済組合に加入しており、かつ自身よりも収入が多いのであれば、年金分割を求めることは、離婚後の生活に困らないようにするためには必須ともいえます。
しかし、合意分割の場合、年金分割を夫婦当事者間だけの話し合いで行おうとすると、相手方配偶者から強い抵抗に遭い、調停など裁判所における手続を利用せざるを得なくなることも少なくありません。
また、年金分割を行うためには必要な資料がいくつかあります。自分一人で全てやろうとするとかなりの手間がかかることになります。
年金分割を行うにあたっては、弁護士に相談することをおすすめします。
離婚事件に精通している弁護士であれば、調停や審判、離婚訴訟に際して、年金分割の手続をスムーズに行ってもらうことができます。
相手が年金分割に応じない、手続が難しくて分からないという方は、ぜひ弁護士にご相談ください。